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予備知識がなくても楽しめる小説10作品紹介

予備知識がなくても楽しめる小説10作品紹介
鳴山シンゴ
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この記事では、
作中のテーマは終始その話題だし、専門用語や知識なんかももりもり出てくるけど、楽しめちゃう!」という感じの本を紹介します。

イメージがしにくい方のために漫画で例えますと、「ヒカルの碁(ほったゆみ・小畑健/集英社)」や「アイシールド21(稲垣理一郎・ 村田雄介/集英社」のようなイメージです。

囲碁やアメリカンフットボール(アメフト)のルールなんて読む前は全く知らなかったし、読んだ後も覚えていない。でも感動したり熱中したりすることができる。
そんな感じの小説をまとめてみました。

作品の紹介を書いていて思いましたが、この手の小説ってそのジャンルに詳しい人より、むしろあまり詳しくない人に読んでもらいたいです!
そして、「こんな世界があったんだ」という好奇心につながるのであれば、これまでにない新たな扉が開くかもしれません!

では早速紹介していきます!

シンゴ
シンゴ

ネタバレはありませんので安心してご覧ください!

予備知識がなくても楽しめる小説10作品

①羊と鋼の森/宮下奈都
②蜜蜂と遠雷/恩田陸
③ラブカは静かに弓を持つ/安壇美緒
④楽園のカンヴァス/原田マハ
⑤猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子
⑥博士の愛した数式/小川洋子
⑦永遠についての証明/岩井圭也
⑧ザ・ロイヤルファミリー/早見和真
⑨アルプス席の母/早見和真
⑩君のクイズ/小川哲

羊と鋼の森/宮下奈都/文藝春秋

1~3は僕の人生においてこれまで全く縁のなかった「音楽」に関する小説です。

「第13回本屋大賞」、「第4回ブランチブックアワード大賞2015」、「第13回キノベス!2016 第1位」と、輝かしい受賞歴を誇る本作。
2018年に山崎賢人さん主演で実写映画化されています。

不思議なタイトルですが、本作はピアノの調律師を主人公とした作品です。

「羊」はピアノの羊毛フェルトで作られたハンマー、「鋼」はピアノの鋼鉄の弦であり、調律の世界という奥深い「森」に入り込んでいくという意味を持つ、とても美しいタイトルです。
表紙とタイトルだけではどんな内容なのかわかりませんが、表紙に楽譜が書かれているので、それで何とか「あ、音楽系の作品なんだな」わかりますね。

本作の主人公:外村直樹は、特に将来やりたいこともなく漫然と高校生活を送っていました。そんなある日、高校のピアノの調律のために訪れていた調律師:板取の調律に感銘を受け、調律師の世界に飛び込みます。

社会人となった外村は新米調律師として働き始めますが、ピアノも弾けず、優れた耳も持たず、ピアニストの気持ちもわかりません。
実際の調律師はどうかわかりませんが、作中に出てくる調律師の方はピアノやその他の楽器の経験がある方がほとんど。
そんな状況に悪戦苦闘しながらも、外村は少しずつ知識と経験、そして技術を身に着けていき、深い深い「羊と鋼の森」へ入り込んでいきます。

本作は調律師のお話ですので、ピアノが作中で頻繁に出てきます。
ピアノの構造、ピアニストの方やピアノを自宅に持っている方の考え方など、ピアノに関する描写ばかりで、一見ピアノや音楽に知識も経験もない僕のような人は楽しめないのではと考えてしまいます。

でも本作の醍醐味はそこではありません。
・生涯をかけて極めたいこととの突然の出会い
・苦しみもがきながら常に研鑽し高めていく様子
・そしていつの間にか自分も高みにたどり着いていたことを周囲から気づかされること

上に書いたようなことを「調律」という仕事を通じて熱く感じることができます。

僕たちはピアノを弾く人であるピアニストや、ピアノという楽器、そして素晴らしい曲にばかりどうしても注目してしまいます。しかし本作では、それを支える調律師という方がいてこそ成立する素晴らしい世界であることを、十分に感じることができます。

読了後はピアノの見方が変わること間違いなしの作品です。

次に紹介する、「蜜蜂と遠雷」にも調律師さんが出てきますが、本作を読んだ後に読むと、ピアニストと調律師の関係をより理解することができますよ!

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蜜蜂と遠雷/恩田陸/幻冬舎

2017年本屋大賞受賞作。
単行本で出版され、その後文庫本で上下巻に分かれて出版されました。
実写映画化や漫画化などのメディア展開もされています。

本作は、ピアノコンクールのお話です。
僕は楽器とは全く縁がなく、もちろんピアノも全く弾けません。カエルの歌くらいです。
でも本作には惹き込まれました。

文庫版では上下巻に分かれるくらい分厚めの本ですが、わかりやすい表現と短いセンテンスのおかげで、ページ数の割にはサクサク読めます。

本作を読むと僕らが知らないピアニストのリアルをについて少し理解することできます。
チープな感想ですが「ピアニストって大変なんだな」と思わせてくれます。

幼い頃からひたすら練習し、楽譜を覚え、体にピアノを染み込ませる。コンクールに出るため曲を選び、覚えて、練習して、洗練させる。一定以上の技術があるのは大前提。

長いものだと一曲30分以上。作曲者の意図や時代背景を理解しつつ、個性を出しながらも、審査員好みになるように演奏する。そんな中、「天才」は軽々と何段も飛ばして凡人の上を行く。

どの業界もそうだけど、天才や神童っているんだなと思わせてくれます。そんな天才たちが集まって勝ち残る人を決めるのがコンクール。

前半ではサブリミナル的にしか出てこない「蜜蜂王子」こと風間塵。実際に演奏を始めると、圧倒的かつ悪魔的。

でもコンクールの優勝者が誰になるかはわからない。結末を知りたくて、最後まで急いで読んでしまいます。

そしてもう一つ。課題曲「春と修羅」のカデンツァ(自由に即興的に演奏するパート)をどう弾くかを見たいという思いが更にページを進ませる。

ピアニストの演奏をこうも具体的かつ鮮やかに言語化できるのって、やっぱりプロの作家ってすごいなぁと思います。しかも全員の演奏が違うことがわかります。

作中でスポットライトが当てられている人は、観客から見るとどのピアニストもとても素晴らしい演奏を軽々しているように見える。
でもそんな彼ら彼女らの緊張や葛藤を知っている読者は、登場人物たちと秘密を共有しているようでかすかな優越感を得ることができますね。

30歳を過ぎたおじさんの僕としては、(彼も彼で天才なんだけど相対的に)凡人に近い明石が好きだしどうしても感情移入してしまいます。
明石の回想で、ピアノが弾けるようになる過程を主観的に語っているのがすごい共感できました。

亜夜が、明石が、コンクールを通じて洗練されモチベーションを上げていくのが面白い。

またコンクールに出てくるピアニストだけじゃなく、審査員、調律師、観客、応援する周囲の人、そのどれもに焦点を当てている作品だから必ずどこかに共感できる場所があります。

誰がコンクールを制したのかは、ご自身で確かめてみてください。

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本作を読んだらスピンオフである「祝祭と予感(恩田陸/幻冬舎)」もぜひ読んでみてください!「蜜蜂と遠雷」に繋がる話と、その後の話が短編としてまとめられています。
「蜜蜂と遠雷」を読んだことがある方はどの話もとても楽しく読めると思います。

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ラブカは静かに弓を持つ/安壇美緒/集英社

「2023年本屋大賞第2位」、「第25回大藪春彦賞受賞」、「第6回未来屋小説大賞第1位」など、本作も素晴らしい受賞歴があります。

そんな本作がテーマにしている楽器は「チェロ」です。
大半の人が「名前は聞いたことがあるけど、どんな楽器かは詳しく説明できない」という楽器ではないでしょうか。

チェロってこんな楽器です↓

チェロの画像

それに加えて、本作は音楽教室の著作権侵害の証拠を掴むために、主人公:橘樹が音楽教室へ潜入捜査するという「スパイ小説」でもあるという、なかなかにこれまでに接したことがない小説です。

まずタイトルが不思議です。「弓を持つ」は、チェロを演奏する時に持つ弓のこととして、「ラブカ」って何?となりますよね。
「ラブカ」とは深海に生息するサメの一種です。本作の表紙にも書かれていますが、とても恐ろしい見た目をしています。

作中でラブカに関連する曲がありそのラブカが「スパイ」を指していること、ラブカは妊娠期間が3年半と長く、著者である安壇先生がこの特徴を「潜伏先で息を潜めて過ごすスパイ」の姿と重ね合わせたこと、樹が「深海の悪夢」という過去のトラウマとも結びついていることなど、いろんな意味が込められているようです。

前置きが長くなりましたが、樹は全日本音楽著作権連盟に勤める職員です。
彼は、音楽教室での著作権侵害の証拠を掴むためのスパイとして、チェロを習う生徒となり音楽教室に潜入します。
樹は過去のトラウマからチェロを弾くことをやめていたのですが、この潜入捜査によりチェロを再開してしまいます。

教室に通い、素晴らしい講師と共に演奏する教室のメンバーの暖かさ、そしてチェロのすばらしさを感じて解きほぐされる樹の心。
でもそれは、本来の目的である潜入捜査が終了したら崩れ去り、自分も裏切り者となってしまうという一時的で儚い時間です。

本作を読んでいる読者も、いつか訪れるであろう悲しい結末に対し「どうか起こらずこのまま穏やかに過ごさせてあげてくれ」と思うこと間違いありません。

主人公が抱える葛藤と対照的に表現されるチェロの暖かく優雅な描写。そして結末はどうなるんだろうという不安と期待が入り混じったドキドキ感で、本作を読むのが止まりませんでした。

チェロの知識も著作権侵害の知識も不要です。
一風変わった音楽×スパイ小説ですが、読んで後悔はしません。

楽園のカンヴァス/原田マハ/新潮社

1~3までの音楽系の小説とは一転して、本作は美術を題材にした小説です。

著者の原田マハ先生は大学で美術を学び、その後は国内外の美術館で勤務した経験をお持ちです。その経験を活かし美術を題材にした「アート小説」を数多く執筆されていますね。

音楽や楽器については僕も「なんとなくカッコイイので始めてみようかなー」と思ったこともありますが、美術に関しては音楽以上に縁遠く、始めようと思ったこともありません。

ただ本作はよくXで読了記録を見かけていたことに加え、原田先生の他作品である「本日はお日柄もよく(原田マハ/徳間書店)」や「翼をください(原田マハ/毎日新聞出版)」などが素晴らしかったこともあり読んでみることにしました。

本作は、天才画家:アンリ・ルソーの名画『夢』をめぐる物語です。
『夢』は本作の表紙にもなっている絵画ですね。

本作を読んでいると、途中で何度も表紙の絵を確認しながら読むことになります。
電子書籍で読んでいる方はぜひ画像を出しながら読んでみていただきたいです。
この絵についての描写が作中に何度も登場し、気になって絵を確認してしまうからです。

第一章の舞台は西暦2000年 倉敷にある大原美術館で始まります。
大原美術館で監視員として働く主人公の早川織絵は、パリで美術研究者として働いていた過去を持ちます。

監視員そして母としての日々を送る織絵の元に思いがけない依頼が届きます。
それは、アンリ・ルソー展を開催するにあたり、ニューヨーク近代美術館からルソーの代表作である「夢」を借りるための交渉役として指名されるというものです。

織絵を指名したのは、ニューヨーク近代美術館のチーフキュレーター(学芸員の最高責任者)であるティム・ブラウン。
なぜ一介の監視員である織絵が指名されるのか、そして織絵は交渉を成功させることができるのか。第一章で物語に引き込まれていきます。

第二章からは、1983年のニューヨークやバーゼルなど、若き日の織絵とティムの物語へ飛びます。

そんな二人は、ルソーの『夢』とほぼ同一のモチーフを書いた『夢を見た』という作品の真贋を判定するという依頼に取りかかることになります。
判定のために与えられた期間は7日間。その期間中に古書を読み、真贋を判定するというものです。

作中では、1983年の鑑定のために与えられた期間と、ルソーが『夢』を書いていた1900年代初頭の場面を行ったり来たりしながら『夢を見た』という絵の真相へと迫ります。

古書から推測される当時の状況や作品の情報を鑑定する1983年パートと、晩年のルソーとその周囲の人々をまるでその場にいるかのように生々しく描写している1900年代初頭のパート。この対照的な2つのパートが読者を惹きつけてくれる気がします。
1900年代初頭のパートでは、まさしく夢を見ているかのような気分になります。

「世界で最も下手な画家」と評され、晩年まで評価も低かったルソーと彼の作品。
でもどこかエキゾチックで人を惹きつける魅力を持ち、あのピカソにも影響を与えます。

その絵の真相はどうなったのでしょうか。
そして、2000年の織絵は無事ルソーの「夢」を貸し出すことに成功するのでしょうか?
最終章の舞台は再び2000年に戻り、本作の結末が明らかになります。

終始、ルソーという画家と絵画にまつわる物語ですが、予備知識は不要です。

ルソーという天才画家が以下にしてこの作品を描き評価されたのか、それにまつわるドラマはどんなものだったのか。純粋に楽しめる。そんな「アート小説」です。

猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子/文藝春秋 

とても不思議なタイトルの本作。
タイトルを見ても表紙を見てもどんなストーリーなのか全くわかりません。
読んでみて初めて、本作はチェスの話だと分かります。

本作は終始チェスの話なのですが、チェスのルールを知らなくても全く問題ありません。
僕もチェスはわかりませんでしたし、読んだ後もルールは理解できませんでした。
これは完全に私見ですが、チェスの細かな描写を意図的に少なくしたのではと推測します。

類いまれなチェスの才能を持ちながら、表舞台には現れなかったチェスプレイヤーの主人公。公式記録には現れず、後に残ったのは「リトル・アリョーヒン」というチェスを指すからくり人形と対決したチェスプレイヤーの経験談と、伝説となった「ビショップの奇跡」という棋譜のみ。

本当にそんなからくり人形が存在したのか、中に誰か入っていたのか、入っていたとしたらそれは誰なのか・・・。

主人公の名前も作中には出ず、読み終わった読者でさえも煙に巻かれたような気持ちと、確かに彼が存在したことを知っているかすかな優越感を感じさせてくれます。

不思議なタイトルの意味は比較的前半で判明しますが、ぜひ本作を読んでなぜこんなタイトルになったかを確かめてみてください。

さて、主人公は元バスの運転手である「マスター」からチェスを教わり、めきめきとチェスの実力を伸ばします。一方で、彼は「大きくなること」にトラウマのような恐怖を感じ、より小さくなることを望みます。

彼はチェス盤の下にもぐってチェスを指すという独特のスタイルをとるのですが、体の小ささとその独特のスタイルから「リトル・アリョーヒン」というからくり人形の中に入り、様々なプレイヤーを相手に「からくり人形の中の人」としてチェスを指すようになります。

チェスの奥深さや美しさを言語化したような小説でした。
だからこそ、チェスで金儲けを考えたりや下品な行動をしたりする人への腹立たしさが対照的に際立ちました。

いくつも印象に残った部分はあるのですが、特に印象に残ったのは以下です。

チェス盤は偉大よ。ただの平たい木の板に縦横線を引いただけなのに、私たちがどんな乗り物を使ってもたどり着けない宇宙を隠しているの。

猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子/文藝春秋 

しかし果たして自分は、棋譜より雄弁な言葉など持っているだろうか。

猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子/文藝春秋 

後半のミイラとの手紙もいいですよね。

卓越したレベルに達したり非常に信頼した相手だったりすると、言葉ではなくプレイで相手のことがわかる。スポーツでもこういうことを感じることはありますね。

子どもって、結局幼い頃に何に出会って、何に興味を持つかがとてもとても大事だと思います。そして、良い師か共に高めあう友人に恵まれたらなおいいですね。

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博士の愛した数式/小川洋子/新潮文庫

シンゴ
シンゴ

ここから2作品は、数学に関連した小説を紹介します。
大の数学嫌いでそれを理由に文系を選択した僕ですが、この2作品は本当に面白かったです!

本作は2006年に実写映画化されていますね。
僕はまだ視聴していないのでいつか観たいです!

ある時点で記憶の更新がストップしてしまい、80分しか記憶が続かない「博士」と、その家政婦である主人公、と主人公の息子であるルート(√)。

この博士の家に来た家政婦は、何人も続けてすぐに辞めてしまっていました。
博士は80分間しか記憶が続かないため、その度に気難しい初老の博士に一から説明をせねばならず、また度々挟まれる数学の話にうんざりするからです。

主人公もその1人。最初は博士の家政婦として働くことに苦戦していました。
しかしあるとき、不意に数学の美しさに気づき、博士のことを少しずつ理解するようになります。

また、シングルマザーである主人公は、あるときから息子を博士の家に連れて行くようになります。子供好きの博士は彼をとても気に入り、彼の平らな頭から連想した数学記号である「ルート(√)」と名付けます。

博士と親子2人の、奇妙だけどどこか温かな物語。
数学とそれを愛する博士の説明の美しさ、分かりあえても記憶が失われてしまう切なさ。
変わらない博士と、博士に触れることで変わっていく親子。

何も起こらない穏やかなストーリーに心が洗われ、記憶が80分しかもたないはずなのに、徐々に博士と親子2人の心は通い合って親密になっていくような感覚にさせてくれます。

作中には数学がよく出てきますが、数学なんて知らなくても読める。
というより、僕のように数学が苦手という方にぜひ読んでいただきたいです。

読みながら計算なんてする必要はありません。
博士による熱のこもった解説と、一見無機質に見える数字や数学用語が持つ数々の魅力で、初めて「数学って美しい」という感覚を理解させてくれます。

最後まで読んで、「親子2人が博士と出会えてよかったな」と本気で思うことができる。
そんな小説です。

永遠についての証明 /岩井圭也/角川文庫

第9回野性時代フロンティア文学賞受賞作。
岩井圭也先生のデビュー作というから驚き。マジでこれデビュー作ってどういうことだ・・

本作は「数学」に魅入られた数学者たちのお話。
「コラッツ予想」という実在する数学の未解決問題をテーマにしています。

「数覚」に恵まれた三ツ矢瞭司は、天才であるが故に理解者が現れず、徐々に孤独になり命を落としてしまいます。

天才は常人には理解されないものであると思いますが、天才が理解されず嫉妬され虐げられていく様子の解像度が高く、読んているこちらがもどかしくて心を痛めてしまいます。

自身も類まれなる数学の才能を持ちながらも、自身をはるかにしのぐ天才である瞭司を友人にもつ熊沢勇一は、そんな瞭司と共に切磋琢磨しながらも同時に嫉妬を覚えてしまいます。
そして、数学を愛する彼らは別々の道へ歩み出してしまいます。

「天才」は、多分地位とか名誉とか肩書とかそんなモノは関係なしに、自分のしたいことを追求したいだけ。でも、追求しようとするとどこかに所属して誰かと関わって、誰かのためになることもしないといけない。
研究者が抱えてしまうジレンマを痛いほどに感じてしまう小説でした。

そんな天才:瞭司が未完のまま残してしまった超難問「コラッツ予想」。
成長した熊沢は、瞭司が残した研究ノートと共にその証明に挑みます。

スポーツとは正反対のように思える数学の証明。
それをこんなにも熱い物語にできることに感動しました。めちゃくちゃ面白かったです。

学生時代の友情と葛藤、研究者としての立場と友人への思いに揺れる心、それらのもどかしい思いを感じながら物語は進みます。

最終盤の二時間にも及ぶ特別講演での証明のシーンは圧巻。
最後の一行を書き終え、「以上です」までの空白の時間を、以下にように表現するのが最高に好みです。

大きく上がった打球がスタンドに入るのを見守るような緊張感

永遠についての証明 /岩井圭也/角川文庫

本作は、上で紹介した「博士の愛した数式」と同様に、数学なんて全くわからなくても楽しめます。むしろ数学が苦手だからこそ「数学ってこんなに美しいんだ」と感じることができ、同時に、数学に魅せられる人の気持ちが少しだけ理解できる気がします。

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ザ・ロイヤルファミリー/早見和真/新潮社

本作は僕にとって全く知識も興味もない「競馬」の世界で、読む前は楽しめるか不安でしたがその不安は杞憂でした。めちゃくちゃ面白かったです!

本作の主人公:栗須栄治(くりすえいじ)は大手税理士事務所に勤めていましたが、退職してしまい次の就職先を探していました。
そんな時に友人の叔父:山王耕造と出会い、彼が社長を務める人材派遣会社へ入社すると共に、馬主でもある耕造社長と共に競馬の世界に長く深く関わっていくことになります。

本作は主人公:栗須の一人称視点で書かれています。
騎手、他の馬主、生産牧場の人々、調教師、記者…などの非常に幅広い人物が登場しますが、「ロイヤル」の名を冠する馬に関わる人達はチームとして一体感があります。
また、「栗須」の呼び方が「クリス」とカタカナ表記になることで、その人物とクリスとの信頼関係がわかるようになるのもまたいいですね。
固くて真面目だけど人柄の良いクリスが主人公であることも、本作の魅力に大きく貢献していると思います。

月並みな感想ですが、馬主は大変なんだなと実感しました。
ただ馬の金を出しとけばいいなんてもんじゃない。華やかなのは本当に一部のみ。
北海道やその他様々な場所を頻繁に訪れ、馬を見定め、騎手や調教師との調整も行い、レースに臨む。大金で購入した馬が勝利するとも限らないし、才能のある馬でもケガをしてレースできなくなることもある。

勝たねば金持ちの道楽として後ろ指を刺され、家族との関係も時間も犠牲にする。
ただ金持ちの道楽では成立しない確かなものがそこにはあります。

華々しい表舞台の裏にあるのは泥臭い努力や苦労、そして人間の娯楽に動物を巻き込んでしまっているという罪悪感。

みんなそれでも馬が、競馬が好き。それでものめりこんでしまうのはなぜなんでしょうか。本作を読むとその答えが見つかるかもしれません。

そんな馬主をマネージャーとして支えるクリスの絶対的な忠誠心が読んでいてとても心地よかったです。

第一章のピリッと緊張のある雰囲気だけれども社長を信じ忠誠する様と、第二章の堅苦しさはなくなったけれども不穏な雰囲気が、なんともいえず対照的で読者を惹きつけます。

ファミリーの外の立場でありながら、いやだからこそ誰よりも深く関わることができたクリス。彼は馬に関わることができて本当に幸せそうに感じました。

そして、しびれるタイトル回収。
素晴らしいタイトル回収は、小説や漫画の印象を強烈に残してくれますね。

二章に入り、ひやひやしながらも結末はどうなるんだと読んでいましたが、最後も良かったです!!競争戦績だけで素晴らしいエピローグだったんだなと感じさせる手法は見事!!

競馬に関わる全ての方の矜持を感じた作品です。

アルプス席の母/早見和真/小学館

上の「ザ・ロイヤルファミリー」に続いて早見和真先生の作品をもう一つ。
本当に早見先生の作品はジャンルの幅が広いですね。すごい!

さて、本作は2025年本屋大賞 第2位の作品。

本当は女の子のお母さんになりたかった

アルプス席の母/早見和真/小学館

↑こんな一文からはじまる、野球少年を息子に持つシングルマザーが主人公のお話。

まず表紙がいいですね。
阪神甲子園球場の一塁側アルプス席から保護者お揃いのピンクのチームTシャツを着て、チームと我が子のプレイを祈るように観る母親。

この物語は、高校球児を息子に持つ母親という珍しい設定の小説です。
偏見かもしれませんが、野球関連の小説って野球が好きな人しか手に取らないと思います。

僕は野球が大好きで知識もあるのですが、本作はぜひ野球を知らない人、むしろ野球が嫌いな人に読んでほしいです!

主人公:菜々子は旦那を失くし、女手一つで息子の航太郎を育てます。
彼女は野球に全く興味はないけれど、息子にはとても素晴らしい野球の才能があって、中学まで大活躍。

関東に暮らすこの親子は、大阪の高校への進学を決めます。
そんな高校での野球部の生活、そして保護者会の規則等、日本の少年~高校までの野球の異常性がこれでもかと具体的に言語化されています。

監督は絶対的な存在であること、寄付という名の監督への金銭的な支援、選手の学年で決まる保護者の上下関係、等々。例を挙げるとキリがありません。

また関東人の菜々子にとっては、「半歩近い」関西の距離感もストレスに感じてしまいます。

シンゴ
シンゴ

この「半歩近い」がしっくりきすぎて、僕も関西人の特徴を人に説明するときによく使っています。

前半は、そんな日本の野球教育の異常性やうまくいかない状況といったじめじめしたストーリーで、この先どうなるのかな?ととても不安になりながら読みました。
特に、バッドエンドのような導入もあり、読み進めるのが辛かったです。
※その導入部分を先に読んでいるからこそ、結末が最高に面白いのですけどね!

でも後半からは前半のじめじめした展開とは対照的に、尻上がりに面白くなっていきます。
かみ合っていく歯車と爽快な展開は、どんどん「先を読みたい!結末はどうなるんだ!」という気持ちにさせてくれます。ぜひ後半まで読んでください。絶対に面白いから!

子を持つ親だけじゃなく、野球が好きな人もそうでない人も、部活を頑張っていた人もそうでない人も、いろんな人におススメできる作品です。

男の子のお母さんで良かったね!

アルプス席の母/早見和真/小学館

冒頭の一文からの↑このセリフ。物語を読んでいると、ジーンとくるものがありますよ。

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君のクイズ/小川哲/朝日新聞出版

最後に紹介する本作は、「競技クイズ」をテーマにしています。

「競技クイズ」と書くとわかりづらいかもしれませんが、「全国高等学校クイズ選手権(日本テレビ系列)」(高校生クイズ)とか、「クイズタイムショック(テレビ朝日)」とかがイメージしやすいかと思います。
つまり、クイズを競技として競い合う番組だったり大会だったりするアレですね。
QuizKnock【クイズノック】の皆さんの存在が一躍有名になったのも記憶に新しいです。

本作は競技クイズの決勝戦の場面から始まります。
主人公:三島と対戦相手である本庄は、あと1問正解した方が勝ちという緊迫した状況にいます。本庄は、最終問題の問題文が読み上げられる前にボタンを押し、正解して優勝してしまいます。
三島と周囲の人は、本庄の「ゼロ文字正答」はヤラセではないかと疑い、真相を暴き本庄を糾弾するための調査を始めます。

この「ゼロ文字正当答」で幽遊白書(冨樫義博/集英社)が思い浮かんだ方は同世代だと思います!

論理的に謎を解いて真相にたどりつくという意味では、本作品のジャンルは「ミステリー」なのでしょうが、誰も傷ついたり亡くなったりしません。
ひたすらクイズについて考え、本庄がどのようにして「ゼロ文字正答」をしたかの真相を追求します。

本作で脱帽するのは、「いかにクイズプレイヤーが思考し正答までたどりつくのか。」という点を見事に言語化しているところです。

「クイズなんてとにかく賢い人が頭に知識を詰め込んで、知っている問題が来たら早く答えるだけでしょ」なんて思っている読者をあざ笑うかのように、クイズプレイヤーたちの絶え間のない努力や技術についてこれでもかと読者に知らしめてくれます。

ここまで「クイズ」というジャンルを取り扱った小説はいままであったでしょうか。いえ、きっとなかったと思います。

(実は僕はクイズは割と得意な方です。本作の登場人物やガチのクイズプレイヤーの足元にも及びませんが、いくつか共感できる部分もあり一層本作に惹きこまれました)

でも本作は「競技クイズなんて興味ない」という方にぜひ読んでみてほしいです。
終始クイズに関する内容なのですが、真相をロジカルに追求していくプロセスは単純に読み物としてもめちゃくちゃ面白く引き込まれます。

そして読了後はクイズ番組で活躍しているクイズプレイヤーたちに感情移入ができますし、クイズ番組を見る目が変わるはずです。

さて、本庄の「ゼロ文字正答」はやっぱりヤラセだったのでしょうか。それとも何かカラクリがあるのでしょうか。気になる方は読んでみてください。

本作は2026年に実写映画化されるので、それも楽しみですね!

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以上、予備知識がなくても楽しめる小説10作品の紹介でした!
何か興味のある作品が見つかれば嬉しいです!

おわり


本を読んだ感想でポイ活ができる「ブクスタ!」についてはこちらの記事をご参照ください。バナーから新規登録できます!

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化学メーカー営業マン / ブロガー
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